二人きりの部屋で、邪魔する人間は誰もおらず甘い雰囲気に酔ったように、どちらからともなく欲に濡れた息が零れ、濃厚な空気へと変えてゆく。 早く相手の奥深くまでを堪能し、味わいつくしてしまいたい衝動に突き動かされるようにして絡み合い、まるで奪うように互いの衣服を剥ぎ取ってゆきながら露出してゆく肌に手を這わせ、唇を寄せ、舌を滑らせた。 舐めた肌がどこか甘く感じるのは錯覚ではないと強く思いながら二人は息を荒げ、汗を滴らせていとおしい相手を思う様まさぐる。 そしてお互いがお互いの秘所を愛撫できるようにベッドの上で相手の下肢に顔を埋め合い、淫らな音を止めどなく響かせた。 くぐもった喘ぎがどちらともなく絶え間なく発せられ、それが更に欲情を煽る。 十分に互いを潤わせた後、とうとう一つになれる歓喜に二人は深く唇を合わせて繋ぎあいながら、絶え間ない律動に揺り動かされ、後はただもう相手のことを髪の先まで感じさせたいという欲求があるだけ。 「…もっと…ああぅ…もっと…ひいらぎさ…」 自分の声が耳に届いた瞬間、閉じていた目蓋越しに陽の光りを感じて瑠依は目を覚ます。 むくりと気だるげに上体を起き上がらせた。 「…………ちっ」 夢オチか。 こんにちは、雪村 瑠依です。 最近の悩みは未だに柊さんとは夢のかなでしか経験が無いということ。 蛇の生殺しのような毎日に…欲求不満全開です。 「……いっそ犯してしまいたい…」 18歳の娘が考えるような事ではないぶっそうな発想である。 朝の清らかな光りでさえも瑠依のこの穢れきった脳内を浄化できなかったらしい。 「もー毎日毎日、朝も昼も夜も柊さんのあの時の顔がちらついて興奮してただでさえイライラしてるのに、夢の中でやるんだったらいっそ最後まで楽しませろってゆーのよ……って美鈴ちゃん、なにそんなところで突っ立ってるの?練習はしないの?」 「お前のせいだろうがっ」 青筋を立てて怒り狂う美鈴に対しても瑠依はいつものほほんとしていた。 柊に会いたさで弓道部の早朝練習を見学している瑠依が相変わらずところかまわず垂れ流す妄想に対して突っ込みを入れる美鈴という構図は既に見慣れた光景である。 その為、部員一同この二人に関しては放し飼いというか、最早何も言う気にもならなくなったというか…慣れって怖いですね。 我が身可愛さに皆傍観者となっていた。 瑠依が柊と第3視聴覚室で過ごした日から5日が経過していたが、腕の怪我は完治には至っていない。 そろそろ日常生活に違和感が無い程には回復してきているようではあるけれど、相変わらず両腕は包帯で保護されていた。 しかし先日の行為で気持ちを確かめ合った二人にとってはこの数日はまるで1日が1ヶ月にも思えており…要するに“したい”のである。 柊の方は部員の指導に現れる度に最初に瑠依の姿を探すのだが、視界に彼女を捉えると、その途端に表情を苦痛にゆがめることが多くなった。 彼のほうでもとっくに我慢の限界らしい。 そして遂に昨日は部活の時間になっても顔を出さなかったのだが、その時の瑠依の絶望は深く、道場の隅でじめじめとキノコが生えそうなほど陰鬱だった。 「たかだか男に一日や二日会えなかったくらいで落ち込むんじゃないわよ」 美鈴がうんざりしながら呟くのだが瑠依は心外だとばかりに強く主張する。 「酷い美鈴ちゃんっ柊さんはわたしの全てだもんっ」 既に半泣き状態の顔で凄まれても迫力は欠片も無い。 しかし瑠依にとって柊に会えないというのは大問題なのだ。 「欲求不満がつのって垂れ流れてくる鼻血の所為で出血多量で死ぬっつぅのよっ!」 要するに柊が恋しくて仕方が無いと言いたいらしいのだが、瑠依の思考回路は結局そっち方面に直結してしまいがちなのが玉に瑕。 「相変わらず自分に正直に生きてんなぁ、雪村は」 的当てを終えて戻ってきた主将の楠木が二人のほうへと歩いてくる。 「その柊さんだけど、いま家に独りだから何かと大変みたいだぜ」 「えっ!」 「家族全員招待の温泉旅行券を福引で当てたらしいんだけど、柊さんは留守番するって自分から言い出して残ってるらしいよ」 「またなんで?せっかく温泉旅行にいけるのに」 美鈴が不思議がって聞き返すと楠木は肩をすくめながら答えた。 「腕の怪我があるから少しでも早く直したくて一人だけ残るらしいんだよ。それでな、うちの兄貴が心配してんだ。自慢じゃないけど、柊さん家事はからっきしらしい」 なんという振って湧いたようなチャーーーンス!! 「千載一遇のこの機会…逃さんっ」 勢い良く立ち上がってガッツポーズをかます瑠依に向けて美鈴と楠木は声をそろえてボソリと呟く。 「「なんて判りやすい奴…」」 「美鈴ちゃん!ウチのママにつじつま合わせヨロシクねー!!」 「…あー、はいはい」 そうして瑠依は弓道部の部活が終った後に楠木と一緒に柊の家へと行くことにしたのだが、途中で夕食の材料を買いにスーパーへと買い物に付き合ってもらった。 「楠木君と柊さんは付き合い長いの?」 瑠依がお惣菜のコーナーを回りながら何となく聞いてみると楠木は揚げ物を美味しそうに眺めていたのだが振り返る。 「ああ、元々家が近所だし、一番上の兄貴が柊さんのこと凄く可愛がってたから。俺達なんだかんだいって弓道の事で気が合って学校以外でも結構会いに行ったりとかするぜ」 楠木の口ぶりから察するに兄弟揃って柊とはかなり親しい間柄らしいと感じ取った瑠依は頬を紅潮させてぐっと彼のほうへと近づいた。 「じゃあ…も、もしかして柊さんの学生時代の写真とか持ってたりする?」 自分がまだ知らない頃の柊に瑠依は深く興味があるらしい。 目をキラキラさせながらこちらを窺ってくる瑠依に楠木はうーんと頭を捻った。 はっきり言おう、柊は大の写真嫌いである。 高校の卒業式の日にクラスメイトから一緒に写真を撮ろうと誘われても断った程。 故に柊の写真といえば卒業アルバムの集合写真か誰かのショットの隅っこに偶然写ったものか隠し撮りしかない。 ちなみに隠し撮りのほうは柊のことを密かに想っていたりした健気な女子達がこっそり撮ったものである。 柊自身はまったく自覚していないが、彼は結構人気があった。 「んー俺は持ってないけど2番目の兄貴は柊さんと同級生だからもしかしたらあるかも」 「ほんと!…あの、よかったらお兄さんにお願いして写真を見せてもらえないかな?」 「いいよ、今度兄貴に頼んでみる」 色よい返事を楠木が返すと途端にぱぁっと瑠依の表情が輝き、部活中の道場でのあの落ち込んでいた影はどこかへ消えてしまう。 そんな彼女を楠木は可愛いなぁと思うのだ。 それはまったく他意の無い親愛の情からくる感情なのだが、彼は柊と瑠依が付き合っていることを知って密かに二人を応援している人間だった。 柊は無愛想で他人に厳しく、自分には更に厳しい性格で楠木は彼のことを尊敬していたが、柊の人当たりはお世辞にも柔らかいとは言い難く、誤解されやすいのを知ってもいる。 今まで誰かと付き合ったとか好きになったとかいう類の噂はまったく聞こえなかった柊が瑠依のことを想っているとわかった時は心配もした。 (柊さんて恋愛に免疫とかまったく無さそうだから…) そんなこれまで無菌状態で来た人がよりによって初めて好きになったのが瑠依では楠木が心配するのも無理は無い。 飽きっぽくて面倒くさがりな瑠依のこれまでの恋愛歴をなんとなく見聞きしてきたのでもしかしたら柊が傷つくような結果に終ってしまうのではないかと危惧していたが今のところそんな気配はないし、むしろお互い相手のことを溺愛しているみたいなので楠木はこのまま自分の心配が杞憂に終ってくれそうで安堵していた。 (むしろ柊さんには雪村くらい積極的な女の子が引っ張ってくれる方がいいのかも) や、それはどうだろう…。 積極的というよりも柊の好みがちょっとズレているだけではないだろうか。 「ねぇ、柊さんの好きなものって楠木君しってる?」 「肉や揚げ物よりも野菜とか魚とかのほうが好きだよ」 「ふーん私とは正反対」 「そういえば雪村ってファーストフードも好きだよな」 「うん、あとカレーも甘口だしオムライスとかハンバーグとか大好き」 「あ、俺も!カレーは辛口が好きだけど雪村と一緒だ」 親近感からお互いニコッと笑いあう。しかしなぜだか次第に楠木の顔から血の気が引いてゆき、こめかみから嫌な汗が次々と流れてゆく。 「…?…楠木君どうしたの?」 声をかけてもある一点を凝視したまま固まっている楠木の視線の先を瑠依は追ってみた。 「柊さん」 スーパーの惣菜コーナーという背景は彼には凄まじく不釣合いで違和感全開だが、家に一人留守番をしているのだから買い物くらいするだろう。 (しかしよりによってこのタイミングで会うかフツー!) 心の中で楠木は泣きながら吼えた。 どうしよう…めっさ誤解してるよ柊さん。 楠木の背筋から冷たい汗が幾つも流れる。 こと瑠依に関しての柊の嫉妬深さをよく理解している楠木は明日からの自分の身の振り方を必死で思案した。 このままでは柊に部活中、指導と称して本気で殺されかねない。 互いに数メートルという距離で柊は血の気をなくして真っ白な顔をしながらもその両眼を瞬きもせずに楠木に合わせている。 もし殺意に質量が存在するのなら間違いなく圧死するほどの凄まじさだ。 楠木のほうは魂が抜け出てしまいそうなほどの恐怖で顔色が土気色である。出来るならこのまま気を失いたいと彼は思った。 「ひーらぎさぁぁぁぁぁぁんっ」 しかしこの空気の読めないアホ少女の行動が楠木を救う。 目の前に最愛の男がいたことに気がついた瑠依は一目散に駆けて行き、人目をはばかることなく柊の胸の中にその身をぎゅうっと摺り寄せた。 「会いたかった会いたかった会いたかったぁ!もう柊さんがいない放課後なんてさびしくてつまんなくて全然楽しくなかったぁ!」 そんなことを言いながら身体にぺたぺた触るというセクハラ行為をしてくる瑠依に対して相変わらず仏頂面だが頬を僅かに赤くしている柊はなんだかちょっと嬉しそうである。 完全にバカップルだ。むしろバカだけだ。 自分の身体に擦り寄りながら上機嫌の瑠依をそっと腕の中に囲った柊は恐る恐るといったように静かに口を開く。 「…瑠依、今日はどうしてここにいるの?…瑠依の家からはこのスーパーは随分遠いのに……それに…なんで、透と一緒なの?」 透、と楠木の名前を発したときだけ柊の声は呻く様な怒気を孕んだものに変わる。だが瑠依の前では取り乱す自分を見せたくない柊の矜持が、囲う腕に力を込めて己の表情を見せないようにさせたので瑠依には彼が怒っていることがわからなかった。 「んー、柊さん今家に一人でいるって聞いたから楠木君と一緒に会いに行こうと思ってたの」 わざわざ自分に会いに来てくれようとしていたことを知って内心で柊は歓喜する。しかし楠木と瑠依を二人きりにするくらいなら部活の時間に顔を出せばよかったと柊は意地を張って道場に来なかった自分を責めた。 自分がいないところで瑠依が他の男と一緒にいることなんて許せない。例えそれが瑠依に対して恋愛感情を持っていない相手だったとしても。 自分が傍にいる時なら誰だろうと瑠依に近寄らせないし、絶対に彼女をどこにも行かせたりしないのに。 怪我が治れば瑠依は柊としてくれると言った。 けれどあれだけ酷く抉られた傷は早々と完治まで至らなくて今でも柊の胸を苦しませる原因となっている。 腕の怪我を忌々しく思うのはこんな時だ。 瑠依は労わってくれているだけなのに、心のどこかでまだ弓を引く自分が、恋人として傍にいる自分よりも彼女にとって大切なのではないかという疑心を抱かせた。 柊自身、弓道は大事だし一生続けていく武道だと思っている。 けれど瑠依には…瑠依にだけは弓道よりも自分だけを見て欲しい。 彼女の心に自分よりも大事な存在があるのだけは許せない。 瑠依が物にも人にも執着が薄いのは知っている。 付き合っていた男とも彼女はあっさりと別れたことがある。あのとき瑠依の傍に自分以外の男がいることに激しい嫉妬心を燃やしていた柊は気がつかなかった。 自分もいつか瑠依に飽きられてしまうのではないかという現実を。 それを思うと柊は胸に震えが走る。 初めて誰かをこんなにも好きになった。 柊は自分を自発的欲求が酷く薄い人間だと思っていたが、瑠依と出会ってからそれは間違いだと気がつく。 今まで自分は誰かを深く想ったことがなかっただけだ。 本当の自分はこんなにも情の深い人間で、欲深で、我が侭。 他人と性行為をしたことはおろか、柊は自慰行為さえ自分には必要ないとそれらの行いを経験してこなかったが、瑠依に出会ってから強い欲を覚え始め、特に5日前の視聴覚室での出来事以降は箍が外れた。 彼女に触れてもらうことを想像して、柊は初めて自分を慰める行為を覚えたのだ。 腕の怪我さえ治れば…。 腕の怪我さえ完治すれば今度こそ瑠依と…。 自慰行為の遣る瀬無さと、瑠依に会いたいという恋しさと、そして彼女の弓道への気持ちと、何より自分のことをどう想っているのかという事が絡み合って柊は道場へ行くことが出来なかった。 心のどこかで瑠依も自分に会いたいと想ってくれているのではないかという淡い期待と、彼女の気持ちが冷めてしまうのではないかという不安をない交ぜにしながら柊が夕食の買い物に出かけたら、楠木と瑠依が互いに笑顔で見つめ合っている場面に遭遇する。 その時柊の胸に去来したのは嫉妬や不安などという生易しい感情ではない。 青白い炎が自分の身も心も焼き尽くすようだった。 しかもよりによって相手は弓道部主将の楠木 透。 楠木を相手になら柊は容赦なく瑠依を取り戻すが、彼には瑠依が本当に好きなのはやはり弓道ではないのかという気持ちが針のように胸の奥を貫く。 …いやだ。 瑠依が好きなのは自分だ。 キスをして抱きしめたいと彼女が思う相手は…今は自分だけだ。 そして瑠依にキスをして抱きしめてもいいのも自分だけのはずだ。 見つめ合う相手は自分であるはずだ。 腕の中にいる彼女を更に強く抱き寄せた柊は挑むような目で楠木を見る。 「じゃあ瑠依は俺に会えたんだから、もう透といる理由はないよね…後は俺と一緒にいればいいよね?」 「えっと、じゃあ雪村…俺帰るから」 「今日はありがとう!約束忘れないでねー」 ひらひらと手を振りながら瑠依が放った一言が楠木と柊の胸中に大きな波紋を呼んだことなど気づくよしもなかった。 楠木のほうは「…俺、明日きっと殺される」と覚悟を決め、柊のほうは約束という言葉に大きな衝撃を受ける。 瑠依は柊の腕の中から離れると彼と手を繋ぎながら買い物カートを片手で引いて歩き出し、再び惣菜コーナーを回り始めた。 「瑠依…瑠依、約束って…なに?」 「んー…内緒です」 「なに?どんな約束!」 食い下がる柊が繋いでいる手に力を込めて瑠依を引き寄せるように腕を引く。 握られた手の強さに流石の瑠依もあれ?と思ったのだろう、きちんと柊のほうへと正面を向き、視線を合わせた。 柊は無言で瑠依を見つめ返したが、それは楠木を相手にしたような気迫の篭る眼差しではなくてどこか縋る様な切実さを秘めている。 その思いつめたような双眸が瑠依に気づかせた。 (そうだった、柊さんは隠し事されるのが嫌いな人だった) 真っ直ぐな瞳と同じ、真っ直ぐな気持ちを向けて、そして瑠依にも同じように見つめて欲しいと思っている人なのだ。 「楠木君にね、柊さんの学生時代の写真を見せてってお願いしたんです」 ニコニコしながら約束の内容を教えた瑠依に、柊は安堵して肩の力を抜いた。 「俺の、写真?」 「うん、柊さんに直接お願いするのは恥ずかしかったから」 本当は柊が写真嫌いだと思ったので言い出せなかったのだが、彼が気にすると思ったので瑠依はその事は黙っておく。 実際その通りだったので柊は口ごもった。 出来るなら楠木に頼まなくても自分が見せてあげると言いたかったが、彼の家には学生時代のは愚かそれ以前のすら手元にない。探せば母親がどこかに管理しているだろうが、子供時代の自分を瑠依に見せるのは恥ずかしかった。 しかし瑠依が楠木と約束しているのは面白くない。 難しい顔をしたままの柊に、瑠依はくすりと笑った。 「柊さん、今度わたしのアルバム一緒に見ませんか?」 「…………見たい」 申し出に柊は僅かに紅潮しながら頷く。先ほどまでの不機嫌も吹き飛んでしまった彼はあっさりと再び瑠依に引かれて歩き出した。 「今日は俺の家に来てくれるんだよね?」 淡い期待を抱きながら柊が問うと、瑠依は振り返らないままのほほんと答える。 「はい、ご飯を一緒に食べて、それから夜這いしにいく予定です」 …夜這う相手に宣言しては夜這いもなにもあったものではないのだが。 期待以上のことがこれから待ち受けているかもしれない事に、柊は急に心拍数が上がるのを感じた。 足が自分のものではなくなってしまったようにうまく動かない。 それなのに、彼の心は早く家に帰りたいと身体を急かすのだ。 柊の家は純和風の家屋である。 そしてその敷地は都心の一戸建てにしてかなりの広さを誇った。 誰が見てもちょっとしたお屋敷である。 買い物袋を片手に持ちながら、柊は中に瑠依を招く。 今日はきっと夕飯の時に食べる物の味を覚えてないだろう。 今からこんなに緊張していては何を食べたかさえわからないかもしれない。 ああ、でも瑠依と初めて一緒に食べる食事なのに思い出せないのは惜しい。 幸せな悩みに、柊はふわふわと甘い心地がした。 そしてやはり恋人と差し向かいで食べた夕食の味は彼の記憶の中にほとんど残らず、ただもうこの後に待ち受けている事で頭が一杯になる。 瑠依は夜這いすると宣言したのだからきっと今日は家に泊まってくれるはず。 腕の怪我が熱を持って火照る。 どれだけ疼いてもいい…弓道よりも瑠依は俺を選んだ。 今頃彼女は風呂に入っている。 わざわざ夜這いに来てくれるのを自室で待つのは相手の気持ちを量る様で嫌だ。 だから柊は寝衣に着替えると客間に布団を敷いて待つことにしたのだった。 風呂から上がって戻ってきた瑠依がふすまを開けてまず目にしたのは、一組だけ敷かれた布団と、その直ぐ横で寝巻き用の浴衣を着た柊が正座をしてじっとこちらを見ている姿。 ごくんと少女の細い首、その喉が音を立てる。 やばい…なにかわからないけど物凄くやばい…このシチュエーション。 つーかなにかのビデオ撮影? いやいやいや、落ち着けわたし、今すぐ押し倒したいけどちょっと待て、都合のいい妄想じゃないよね?わたし。コレ全部嘘じゃないよね? 思わず頬を思い切りツネリあげた…痛い。 ってことはなんですか、リアルでこの状況が目の前にあるってことですか? なにもかも準備万端いつでもオッケーってことですよね…柊さん。 瑠依はしずしずと進み出るとまず部屋の明かりを消した。 「……柊さん」 もっちろん残らず全部頂きます。 そっと彼の正面に同じように座ると瑠依はその手を静かにとる。 「…腕の怪我、随分良くなったんですね」 見れば包帯を巻いていた両腕はガーゼを当ててネットで保護していた。瑠依はそれを浴衣の袖をまくり、丁寧に外してゆく。 外気に晒された柊の引き締まった腕につけられた擦り傷の跡はまだ少し生々しく残っているが、それでもあれだけの怪我を負ったことを思えば大分綺麗に治っている。 しかしふと視線を感じて顔を上げると、柊がその秀麗な眉を寄せて今にも堪えている感情が噴出しそうになる直前のような表情をしていた。 「…柊さん、今でもわたしがあなたよりも弓道のほうが好きだと思ってませんか?」 瑠依の問いにビクリと柊の肩が震える。 内心の不安を言い当てられてしまい訳もなく目の奥が熱くなるのを感じて柊は唇を噛むが、直ぐに瑠依の唇が覆いかぶさるように重なり、強張りを解いてゆく。 歯列をゆっくりとなぞり、柊の唇の内側を瑠依の舌が舐めあげると背筋にゾクッと快感が走った。思わず口を開いた途端に舌が入り込み、あっという間に絡めとられてしまう。 「…っふ…ぁ」 舌を吸い上げられ、時折甘く噛まれると身体の芯に火が点いてゆくのがわかった。 「っ…あっ…ん」 前触れもなくいつの間に入り込んでいたのか瑠依の手が浴衣の前を割って柊の足の間を撫で上げてその中心に手を這わせる。 下着越しからの愛撫にも敏感に反応した。 ひとしきり柊の口内を味わった瑠依が唇を離すとそのまま耳元へと移動する。 「弓を引くときの柊さんは勿論大好きですけど、今はそれよりこういう時に見せるあなたのほうがずっと好きですし、もうとっくに弓道よりも愛しています」 囁くと、耳たぶに噛み付き、形をなぞるように舌で辿る。 その間も下腹部に這わせた手は下着から入り込んで直に勃ちあがりかけた柊の熱を煽った。 「…んっ…」 「柊さんの声…大好き…」 「る、い…」 「目も…指も…わたしのこと好きなところも…素直なのに素直じゃないところも…全部…好き」 瑠依の手の中の熱の先端を人差し指で軽く抉るように突くと一層声を上げて柊が何度も小刻みに震える。 「ねぇ…柊さん…」 呼びかけに息を荒くする柊はかろうじて目だけで「何?」と聞き返す。 「こんな風に、あなたに触ったのって…わたしが初めてなの?」 なんとなく、今までの柊の反応の一つ一つが慣れていないというか、自分とキスをするまでは誰ともしたことがないのではとさえ感じていた。 聞かれたほうの柊は一気に顔に熱を集めて一瞬口ごもるが、そのうちに観念して小さく口を開く。 「…そうだよ」 呟くように短く答えて彼は探るように瑠依を見つめた。 彼女のなかで自分への気持ちに揺れが生じてはいないかと。 「瑠依に会うまで…全然興味のないことだったから」 柊は瑠依の自分と出会う以前の恋愛経験を問うほど勇気はないが、やっぱり彼女のほうが自分よりも慣れているという事はこうして触れ合っていてわかる。 瑠依にとって、自分は何人目かの男なのかもしれない。 柊はおずおずとだが自分から唇を寄せ、重ね合わせた。 瑠依に用意したのは女物の寝衣用の浴衣だったので、柊は躊躇いながらも彼女の腰の帯に手をかけて解くと今度は自分の方の帯を解いてから布団へと崩れるように横たわる。 「瑠依…瑠依、しよう?」 これ以上の我慢を続けるのはもう無理だったし、自分は既にそうする気だった。 後戻りする気は元から無く、そして瑠依に逃げ道を与えるつもりもない。 自分がされて気持ちいいと感じた動きを真似るように柊は舌を動かして瑠依の口内を多少ぎこちなかったが動かす。 時折瑠依が僅かに身じろぎしたり、くぐもった声を上げながら頬を紅潮させてゆくのを見て確かに彼女に快感を与えているのだと感じて嬉しかった。 唇を離して互いに見つめあうと瞳を潤ませた瑠依が囁く。 「柊さんのキス、ちょっと上手になった」 唾液に濡れた唇は艶やかで、動かすたびに欲情を煽り、柊の肌を熱くさせる。 汗ばんだその肌に瑠依の手がひたひたと這い、肩にかかると浴衣が滑るように流れて彼の背中を露にした。 「これからもっと沢山わたしで上手になってね」 微笑みながら背中に回した腕に力を込めて自分のほうへと引き寄せた瑠依は柊の引き締まった胸に吸い付くと軽く歯を立てて紅い痕を残す。 所有印を刻むと満足気に顔を緩ませた瑠依を見て柊も彼女の肩を強く吸い上げ、同じように痕を付けた。 日に焼けていない白い肌に、自分が刻んだ紅い痕がくっきりと残る様は柊の欲を大きく刺激し、彼は鎖骨や腕の内側、胸元へと次々に唇を移してゆく。 そのうちに柔らかく隆起する瑠依の胸の先端がふっくりと尖っているのを堪らず口に含んで舌で転がした。 「あんっ」 瑠依が思わず高く甘い声で鳴き声を上げるとその声に歯止めをなくして柊は一層執拗に指と舌で彼女の乳首やその周囲を弄ぶ。 「ふぅ…あっ…はっひいらぎ、さ…」 快感を強く感じる箇所をねっとりと愛撫されて喘ぐ瑠依の表情をもっとよく見たいと、柊は一度彼女の胸から顔を上げて僅かに上体を起こした。 いつもは無表情のその顔が呼吸を荒くして汗に濡れ、乱れた髪の間からのぞく双眸は自身の内側から起こる熱に潤んでいる。肩からずり落ちた浴衣がかろうじて引っかかり、きわどい位置を隠している姿で見下ろす柊を見て瑠依はボソリとこぼした。 (何も着てないよりも視覚的にむしろ…) 「柊さん…すごくエロい…」 自分を組み敷いている柊の足の付け根…浴衣の影になってよく見えないそこへ瑠依は太股を寄せて擦りあげる。すると熱を持ったそれは既に下着を押し上げて先走りを滲ませているのがわかりニヤリと笑った。 「…っ瑠依こそっ…やらしい…」 「でもヤラシイ子…柊さん、好きでしょ?」 腕を伸ばして柊の下着に手をかけてじりじりと引き下げるとあとは足先で器用に瑠依はそれを膝の辺りまで下ろす。 「瑠依がっ…ぁ、やらしいのは、好き…ん、…俺を見て…やらしくなるのが好き」 細くてしなやかな指が柊の胸の突起を突付き、足で彼の勃ち上がったモノを撫でた。 「胸のここ、尖って……ココも濡れてて、硬いし…柊さんの身体、エロい」 「…あっ…」 「声とかも、凄く…くる」 「ふっ…く…瑠依だって…」 喘ぎたい気持ちを堪えて柊は瑠依の下肢へと手を伸ばし、彼女の下着を強引に剥ぎ取った。そして下腹部の淡い茂みの更に奥に指を這わせるとゆっくりと上下に動かす。 「瑠依だって、濡れて、熱い…」 触っただけで彼の指はねらねらとしたもので濡れた。 瑠依の膝頭に手をかけて大きく足を開かせると、茂みに守られ、柊を待ちわびるようにヒクリと蠢く奥をじっと目で犯す。 「あ、ん…やだ…」 ヒクつく奥が蠢くたびに微かに音を立てている。 淫らな瑠依の動きに柊の喉が無意識に唾を飲み込んだ。 そっと入り口に指をあてがい、ゆっくりとその中へ沈めると、くちゅくちゅという水音を立てさせながら柊が瑠依の奥を押し開くようにかき混ぜる。 ビクリと白い肢体が何度も跳ねた。 「やぁ、ん…あっあぅ…ひ、いら、ぎ…さっ…」 「…声だって、俺より…やらしいくせに」 「あはっ…柊さ、ん…もう…駄目、ぇ…」 身体を小刻みに震わせた瑠依が懇願するように訴えるのを聞いて柊は急く気持ちを堪えて一端沈めた指を引き抜く。 大きな呼吸を繰り返しながらもなんとか息を整えた瑠依が少し躊躇いがちに問うた。 「…柊さん、用意してる?」 避妊具を準備しているかと聞かれた柊が小さく頷くと枕元に手を伸ばすのを見て瑠依はちゃんと考えてくれていたことに安堵する。 用意が無かったときの為に自分も持ってきていたが、やっぱり相手もきちんと避妊の事を気にしてくれていた方が嬉しい。 少し身体をずらして避妊具を付けた柊がもう一度覆いかぶさり、この先の了解を促すように見つめてきたので瑠依は自分の足を彼の腰に絡みつかせて引き寄せた。 恐れるように、戸惑うように、けれどそれ以上に繋がりたいという想いに震えながら柊は少しずつ瑠依の中へと押し入る。 今まで感じたとこの無い、熱く絡みつく感触が繋がりあったところから一気に全身を満たす。 「…瑠依…」 「柊さん、いっぱい…動いていいよ…沢山…感じていいよ」 囁きに促されるように浅い律動が始まり、何度も何度も柊の熱は瑠依の中を出入りする。 そしてそれは次第に深く荒く、激しい動きに変わり、互いの唇から喘ぎを止め処なく零れさせた。 乱れる髪の間から幾筋も汗の雫を落とし、時折それを払う様に髪をかき上げる柊の切羽詰った表情が凄まじく扇情的で瑠依は締め付けを強くする。 全てを持っていかれてしまいそうになるのをギリギリで堪え、柊は突き上げる律動を激しくし、揺さぶられる瑠依の胸のふくらみや、抜き差しを繰り返すたびに響く水音と彼女自身の甘い声を味わった。 申しわけ程度に身体に纏いついている浴衣は汗を吸って重みを増し、律動に鈍く上下する。 「はっあぁ…んあっ…も、だめ…だめっ…ぇ」 「…っる、い…くっ…イクッ」 これ以上ないほど自分を深く埋め込みながら達した柊はその余韻を逃がしたくないように瑠依の身体に縋り、抱きしめた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「あんまり楠木君を困らせちゃ駄目ですよ?」 何度目かの余韻を味わった後、新しい浴衣に着がえて布団に二人ぴったりと寄り添いながらの会話で瑠依がおもむろに柊に言い聞かせる。 甘い雰囲気に上機嫌だった柊はその言葉に途端にムッと拗ねたような表情をした。 「どうしてそんなに透のこと気にかけるの?」 瑠依の腰を攫うように抱きしめた柊は互いの身体をより一層密着させ、彼女の瞳をじっと見つめる。 「俺は浮気にはこれっぽっちも寛容じゃないからね。これからは…俺なしじゃいられなくさせるつもりだし…」 「…何気に柊さんて、エロいよ」 「瑠依のほうがヤラシイ」 「初めてで一晩に3回もする人がそんな事言っていいんですか?」 「………」 見る見るうちに顔を赤らめてゆく柊に瑠依はニヤリと性質の悪い笑みを浮かべた。 もう少しこの表情を眺めていたいので、とっくに柊なしじゃいられないという事実を彼に教えるのは後にしておこうとそんなことを思いながら。 |