高校時代に弓道の全国大会で個人の部を2年連続優勝している柊 秀一は現在23歳で今でもその腕前を高く評価されて母校の弓道部の指導をしているが最近になってその状況に変化が現れた。 5歳年下の現在高校3年生で、弓道部に良く遊びに来ていた雪村 瑠依という少女と恋愛中なのである。 まだ付き合い始めてほんの1ヶ月で、しかも柊にとっては出会ってから瑠依が好きだと自覚して1年以上も片思いを続けた恋で、更に生まれて初めての恋。 柊 秀一さんの初恋の行方。 瑠依と恋人同士になってから柊はしきりに携帯電話を気にするようになった。 それまでは緊急の要件で使う以外に必要性をまったく感じず、登録してあるのは全部が弓道関係のものばかりで、唯一私生活で関係のあるアドレスといえば楠木兄弟の長男が無理やり携帯を奪い取って登録したものだけである。 その時の柊の憤慨ぶりは凄まじく、しばらくの間は楠木長男から電話やメールがかかってくると憎々しげに携帯の画面を睨みつけていた。 しかも神経質で気難しい柊とは対照的な楠木長男は、やることが大雑把で細かい事を気にしない何事も全部ドンブリ勘定的な思考の持ち主だった。 電話の用件もメールの内容も緊急性や重要性が欠片も無い非常に暢気なものばかりで、それが益々柊を苛立たせたのだが、ともすれば何かと孤立しがちな柊を外へと連れ出したり、元弓道部員たちとの飲み会に誘ったりしてなにかと交友関係の維持に気を使ってくれる兄貴肌である。 そういう理由で柊は家にいる時には携帯をまったく気にしない生活を送っていたのだが、初めて瑠依が家に泊まった日の明け方に思い切って携帯のアドレスを交換しようと持ちかけたのだ。 「…あの、…瑠依…ケータイ…」 男子の平均身長よりも幾分高い背丈である柊は、男性らしい広い肩幅をどこか小さくさせてゆっくりと瑠依の前に携帯電話を差し出す。 本当なら付き合い始めからアドレスの交換をしてもいいはずなのに、今になってこんな事を言い出す恋人に瑠依が呆れていないか心配そうな表情を浮かべていた。 瑠依は弓道をする人間が大好きである。 厳密に言うと弓を射る瞬間の空気を大変好んでいたのである。だから柊は自分の射法八節を食い入るように見つめていた瑠依を見て、付き合いだした今も実は柊自身を好いているのではなくて、ただ弓道の上手い相手だから関心を寄せてくれているのではないかと不安だった。 元々瑠依はとても飽きっぽい。 今まで瑠依が誰かと付き合っていても長続きした事が無いのを柊は良く知っていた。 自分もすぐに飽きられてしまうのではないかという不安と痛みが常に彼にはある。 勉強も遊びも恋愛も夢中になった事の無い瑠依が唯一ずっと好きなのが弓道をする誰かの姿を見つめる事。 だから柊は瑠依の心の中では自分との恋愛よりも弓道が優先されているのではないかと心配になるのだ。 一日でも、一分でも、一秒でも早く、瑠依の中で自分の存在が深くなればいい。 他の誰だろうと、何だろうと、彼女の全ての中で自分が一番の特別になりたい。 なによりも身体で確かめ合った今では少しの間でも離れているのが辛く感じた。 些細な繋がりでもいい、瑠依を感じられるものが欲いと柊は思っている。 今までさして大切にも思っていなかった携帯電話の存在が俄然彼の中で重要性を増したのはこの瞬間だった。 「いいですよ」 ほやんとしたいつもの笑顔で瑠依が鞄の中から自分の携帯電話を取り出す。 瑠依も瑠依で、実は柊と携帯のアドレス交換を密かに狙っていたのだが、なんとなく柊が携帯電話を所持しているイメージが無かった(ぶっちゃけ持っていそうにないと9割がた思っていた)ので今まで何も言わなかったのだ。 「あ、柊さんってわたしのと同じ機種なんだ!赤外線通信であっという間にアドレス交換できますね」 瑠依と同じという部分に柊は嬉しくて顔を緩める。 アドレスを交換し合った初めはお互い日に何度もメールのやり取りをしたし、電話をかけて次の日の約束を交わしていたのだった。 しかし最近の柊は表情がまったく冴えない。 何度も確認するのは、携帯の着信。 ここ数日、瑠依からの連絡がほとんどなかった。 「…瑠依は俺と離れていても、寂しくない?」 いつも揺らがない強い意志を秘めた柊の瞳が、瑠依の事になるといとも簡単に不安を浮かべてしまう。 メールを送ればいつもと変わらない調子で返事が届く…。 「…っ…違う…いつも通りなんかじゃ、ない…」 少しだけ文面が短い。 少しだけ、返信の時間が遅い。 柊の中で考えないようにしていた不安がどっと膨らむ。 もしかして…もう自分に飽いてしまった? まだ数えるほどしかキスしていないのに。 まだ伝えたいことが沢山あるのに。 たった一度しか寝ていないのに…もう、飽きられた? たった1ヶ月で、もう捨てられた? 違う、そんなわけは絶対にないと言い聞かせるが何せ柊は恋愛経験が皆無で今までのほとんどが瑠依にリードされてばかり。 面倒が嫌いな彼女が愛想を尽かしてもおかしくない。 部活の指導の為に弓道場に訪れれば、確かに笑顔の瑠依はいる。 変わらずに傍に駆け寄ってくれ、触れもするが、それならどうして最近彼女からの連絡が来ないのだろう。 「俺は、俺が瑠依といない間に、君の周りに誰かが側にいて、笑いかけたり、話したり、触れたりすることが許せない…我慢できないくらい…寂しいのに、瑠依は違った?」 思えばこれまで自分は瑠依に頼りすぎていたのではないだろうかという想いが柊の頭の中を支配した。 告白は自分からしたが、それ以降の出来事はどれも全て瑠依が教えてばかりだった気がする。 彼女の関心を取り戻したい。 しかしどうすれば喜んでくれるかまではわからない。 余裕なんてこれっぽっちもない自分の滑稽さが悲しくて柊は手の中の携帯を音がなるくらい握りしめた。 そう、柊は自分の事で精一杯なので、実は瑠依の真実まで見えない。 これが美鈴や楠木家の三男坊だったなら簡単に答えを言えるのだが。 「柊さんが特に努力しなくても、瑠依はとっくに貴方に永遠に繋ぎとめられてますよ」 瑠依の親友の美鈴なら、心底うんざりしながらそう言うに違いない。 事実が事実だけに、当人以外の人間にとっては甘いを通り越してむしろクソ苦い。 ベタ惚れ同士の二人なのに、なぜこうも相手の気持ちに鈍感なのか。 そしてその鈍感さゆえか、柊は一つの決心を固めた。 もっと積極的に瑠依に対して行動を起こせるようになる事を。 今まで以上に彼女に愛してもらう為に。 次の日、柊はいつものように弓道部の部員の指導の為に早朝から学校に訪れていた。 瑠依は大抵、よほどの事がない限り早朝練習を見学しに来るのでこの日も道場の隅っこで眺めていた。 「瑠依」 柊が声をかけると瑠依はにっこりと笑顔で「おはよう、柊さん」と挨拶をする。 冬の道場はめっぽう寒い。 手足なんて簡単に凍りつきそうな温度だ。 瑠依は必死に手を擦り合わせて白い息を吹きかけながらなんとか暖をとろうと試みていたが、柊に気づくとほたほたと足早に歩いて部員達の邪魔にならないようにしながら彼の傍へと寄った。 瑠依は柊の傍で、彼の手を取りながらとりとめもなく昨日の出来事を笑いながら話すが、それにも柊は違和感を覚える。 『柊さーーーんっ会いたかったぁ!!』 『なんでずっと一緒にいられないんでしょうねぇ早く柊さんと二人っきりになりたいなぁ』 体当たりみたいにして近くに来て、会話の中には必ず柊の名前があった。 あったはずだった。 猛烈なテンポで迫ってくるのが今までの瑠依だったとしたら、目の前の彼女はとてもゆっくりで、触れてくる手は、以前ならすぐに腕や胸の辺りだったのが、今はそっと…それこそ壊れ物のように手を握るだけ。 それが柊の中の不安を煽る。 「あの…瑠依」 「はい」 「…今日も一緒に帰れる?」 勿論ですよと瑠依が笑うが柊のなかの不安は拭えなかった。 いつもと同じ位置に彼女は立っているはずなのに。 いつもと変わらないはずなのに、距離が開く。 君へと手が届かなくなる。 繋いだ手を、何時の間にか柊は強く握り返していた。 「柊さん?」 「…ぁ…ごめん………でも、少しだけこのまま…で…」 「ん、いいですよ」 微笑む彼女の表情に、嘘は無いように思えた。 言葉どおり、柊は少しの時間だけぎゅっと瑠依の手を握り、その後は部員の指導を始めたが、その姿を見て不審に思ったのは瑠依ではなくて美鈴の方だ。 (…?…震えてる…あの柊さんが) 他人の機微に敏感な美鈴は柊の背中が確かに震えていると感じた。 「ねぇ、るい」 朝練の終わったあと、教室で美鈴は瑠依を呼んだ…が。 その顔を見て美鈴は素で引いた。 「……………あんた、そのツラどうにかしなさい…」 そのツラとはどのツラかというと、締まり無く緩みきってニヤニヤとしている瑠依のツラである。 「あ、ごめんごめん美鈴ちゃん。朝の柊さんの姿を思い出してたら自然と口から涙が…」 「お前は酒びたりのエロじじぃかぁぁぁぁぁぁぁっ」 「だって聞いてよ美鈴ちゃんっ今日の柊さんてば朝から色気全開の目線で見つめてくるし、手なんかぎゅぅぅって握ってきちゃってねぇ!しかも今日の服って白のYシャツ姿であの下に鍛えられた肉体が隠されているかと思うとあの場で直ぐにでも押し倒したくなる衝動があふれ出てムラムラと…」 「もういいっ何も話すな、喋るな、考えるな、いっそ息も止めろっ」 美鈴は自分の繊細さにこの時ほど嫌気が差したことは無い。 なぜあの時、柊さんのことを気にかけてしまったのか。 そして美鈴はこれ以上瑠依との不毛な会話を続ける気力など最早無かった。 授業が全行程終わると瑠依と美鈴は部活動へとくりだす。 柊が来るのは夕方の5時頃だが、この日はいつもより早く姿を見せた。 そしてやはり美鈴は柊の不安定さを感じ取る。 「…?…なんか今日の柊さん変だな」 主将である楠木も気づいたらしい。 いつもは完璧な射法八節が、どこかおかしいのだ。 放たれた矢の放つ空気が、その振動が、精神の不安定さを露呈させる。 「透くんも思った?」 「ああ、やっぱ調子が違うよな…他の部員は気がついてないみたいだけど」 的当てを終えた柊が綺麗な足取りで近づいたのは瑠依の方。 「原因は当然るいよねぇ」 「やっぱそれ以外ないよなぁ」 二人同時に溜息を吐く。 この日の柊は何時にも増して瑠依の傍へと行きたがる。 彼の周りからピリピリとした空気が放たれていて、部員達も一層話しかけ辛い状況だったが、気づいていないのは瑠依くらいだ。 「雪村って…本当に…天然記念物クラスの鈍感だな」 「むしろ絶滅して」 美鈴の本音は容赦が無かった。 部活動が終わって皆が帰り支度を始めた頃、瑠依は約束どおり柊と一緒に帰る。 いつもは瑠依から繋ぐ手が、今日は柊からだった。 途中、どこかに寄りたいと言った柊が閑散とした公園へと足を運んだ。 冬の時期の公園は一層寒々としている。 人気の無いベンチを見て、確かこの場所で柊から何度目かの告白をされて、それを素気無く断った事を瑠依は思い出した。 「瑠依…キスして、いい?」 唐突に降ってきた言葉に一瞬瑠依の思考が止まる。 「え?」と、そんな間の抜けた声しか出なかった瑠依に、柊の顔がみるみる紅潮して、その表情がこの場に居たたまれないと言ったものに変わった。 だが挫けずに柊は頑張る。 「…瑠依、しても…いい?」 目を逸らさずに、告げた。 瑠依は少しの間を置いてから「いいですよ」と微笑んで目を閉じると真っ暗な視界の先で、柊が息を小さく吐く音が聞こえた。 ジャッと靴底が砂利を混ぜながら歩き出す靴音が聞こえて、そっと肩に柊の手の温もりを感じる。 耳が敏感になって、僅かな服の擦れる音も大きく聞こえた。 唇への感触は直ぐにやってきて、ぎこちなく合わさった後に時間をかけてしっとりと重ね合わせてくる。 それから何度も角度を変えて啄ばむようにキスを繰り返した柊が、瑠依の歯列を割って舌を侵入させようとしたが意外にも瑠依が拒んだ。 「…る、い…?」 呆然とした柊に、少し微笑んだ瑠依が言う。 「ここまでで、お終い」 「…っ…俺はもっとしたい」 はっきりと告げた柊に、瑠依はそれでも頷かない。 「瑠依ともっとしたい」 激しい口調ではないのに、静かな声は感情を抑えているのが如実に表れていて、いっそ荒々しい。 「ごめんなさい」 「…っ」 きっぱりと瑠依は拒否した。 「……いい」 「柊さん?」 「…いいっ…今日は、もう…一緒には、帰れない」 そのまま柊は踵を返して瑠依の前から立ち去った。 ふらふらと足元がおぼつかない。 歩いているのか、止まっているのかも判らなかった。 …瑠依と喧嘩した。 すぐに謝ればよかったのに、出来なかった。 罪悪感で一杯になった柊は呆然としたまま携帯を手にしてじっとそれを見つめる。 瑠依からの着信はない。 本当はただ、もう一度彼女からの連絡が欲しかった。 以前のように全身で自分に全てを注いで欲しかった。 だから柊は一縷の望みをかけて携帯を開く。 家に帰った瑠依は鞄を早々に部屋のベッドに放り出すと何もする気になれなくて、だらだらと過ごしていたが、ふと携帯をマナーモードにしていたことに気がついて鞄から取り出す。 メールが届いているのを見てフォルダの中身を確認すると送り主は柊だった。 半ばそうではないかと思っていたが、瑠依の表情に明るさは無い。 おっくうそうに文面を見ると短い文章で『今日の公園で待っている』という内容だった。 読み終わってから目をすがめて、瑠依はすぐに携帯を仕舞う。 いつもの自分ならこの時点で付き合っていた男に何の未練も無くなっている。 だが相手は柊だ、瑠依が愛想を尽かすはずも無い。 しかしこの時の瑠依は約束の時間に出かけるのをしぶった。 現在の時刻は7時20分。 12月の夜の空気はとても澄んでいる。そしてじわじわと体の中の熱を奪われる程に冷たい。 瑠依は思い直して外へと飛び出した。 運動が苦手で、体力も平均以下な彼女はしかし一度も足を休めずに走り続ける。 息を吸う度に肺が凍りつくような気がした。 それでも瑠依は、ただひたすら公園を目指して走る。 「なにやってるんだろ…本当に、何やってるんだろう私…」 手足はあっという間に冷たくなって、寒さで目を開けてるのも辛いのに、なんでこんなに必死になって走ってるんだろう。 面倒な事なんて大嫌いのくせに、本当は誰かに真剣に想われるのは重たくて、逃げてばかりいたくせに。 「こんなの、わたしには全然似合わないし…関係ないって思ってたのに」 なんでもかんでも中途半端で、真面目になにかをやり遂げた事なんてない奴が、あんなに真面目で厳しくて、恋愛面で純粋培養な人に一目惚れなんかしてしまった。 きっと彼に永遠の愛なんて誓えない。 だけど…。 「柊さんっ」 だけどこの気持ちは、ひと一人を一生愛するには十分に足りる程の情熱と愛情だと瑠依は確信している。 電灯の薄明かりだけが照らす公園の奥のベンチで、その人は膝を抱えて、うな垂れながらじっと恋人を待つような人で。 例えば瑠依が来なくても、来るまでずっと待つような人で。 周りの人間なんてどうでもよくて、どう思われていても気にしなくて、強気で、誰かにかまわれるのも嫌いな人なのに。 ただ一生懸命、彼は瑠依を待っていた。 何度告白を断って、酷いことを沢山言っても真っ直ぐに見つめてきた人。 傷つく事を恐れなかった彼が、今は近づく事に…拒絶される事に怯えている。 「…柊さん」 名前を呼んでも、肩を震わせただけで決して顔を上げてくれない。 見つめあうことも出来ないくらいに嫌われてしまうのを恐れている。 「ごめん、なさい…」 ぎゅうっと抱き締めながら謝ったのは瑠依の方だった。 「沢山、待たせて…寒いのに、柊さん…こんなに冷たい、のに…ゴメン…」 呼吸も上手く出来ないし、言葉もまとまらなくて、つたない。 「待っていてくれて…ありがと…」 柊の腕がぎこちなく回されて瑠依を抱き締める。 寒さからか、嗚咽が堪えきれないからか、とてもゆっくりと力を込めてくる。 「…ぃ…瑠依…ぃ…っ」 縋るように声が擦れている。 「柊さん…柊さん、悲しいの?…辛いの?…もうやめたい?」 この恋を。 瑠依が暗にそう告げると勢い良く柊の首が横に振られた。 なんだか凄く安心して、瑠依の目からも涙が零れそうになる。 「上手くいえないけど…柊さんもこんな気持ちなの?」 切なさに胸の奥の痛みが全身を巡る。 抱き締めていた腕を解いた瑠依が、柊の手を包み込む。 節くれだった指、はとても冷たくて、白くて血の気が無いまま小さく震えていた。 涙の膜を張った柊の双眸を縁どる睫毛もおんなじように震えている。 「俺のこと…もう嫌いになったと思った…」 今にも零れ落ちそうな涙と、けぶる睫毛に縁どられた充血した目が真っ直ぐに瑠依を見つめた。 その視線に瑠依は頬を染めながら少しだけ横を向く。 言いにくそうに何度か口ごもった後、再び柊の方を見つめた。 「違うよ、でも…そうだよね、今まであれだけ押してたのが急に引いたら変に思われちゃうよね」 「?」 「…わたし、柊さんのこと大好きで、会いたくて会いたくてそればっかりで、一緒にいる時間をどう過ごしたいとか、柊さんの都合とか、無視してたかもって思ったの。だから少し、自分のなかできちんと距離をとりたかったの」 気持ちをコントロールできるように。 「…そんなの…」 「ん、ゴメンね。きちんと話さなきゃ、お互いに足並みも揃わないよね」 「そんなのっ…俺、全然…俺だって瑠依と会いたくて、もっと声とか聞きたくて、一緒に過ごしたいって思ってたのに…やっと瑠依が俺の傍にいてくれるようになって嬉しいのにっ…離れていったらどうすればいい?…俺だって…俺の方こそ、瑠依がもう俺なんてどうでもいいって思ったらどうしようってそればかりだった…なんで、もっと俺の名前とか呼んでくれないんだろ、とか…触ってくれなくなったんだろうって…」 嗚咽を堪えながら、柊は堰を切ったように今まで自分を追い詰めていた感情を一気に吐き出す。 柊の言葉を聞きながら瑠依はやっと気がついた。 ずっと怖がっていた。 ずっと不安だった。 ずっと辛かった。 愛されたいと願っていた。 「柊さん、キスしよう」 嬉しそうな瑠依がそのまま柊の唇をそっと塞ぐ。 柊からの抵抗はまったく無くて、あっけなく唇は開かれてお互いの舌が絡み合った。 公園のベンチに座ったままの柊を跨ぐようにして膝立ちになっている瑠依が覆いかぶさるような体勢でキスを交わす。 白い息と唾液がすき間を縫うようにして零れる。 次第に柊のほうで余裕の無い声が漏れ始めたので瑠依がそっと彼の下腹部に手を添えた。 ビクリと肩を震わせた柊のそこは欲を持って熱い。 「瑠依は…心が欲しいくせに身体ばかり反応する俺を、嫌いにならない?」 「どうして?すごく好き」 上機嫌の瑠依はにっこりと極上の笑顔だ。 柊のYシャツのボタンを首の方から順に2・3個外すと彼のシャツの裾を引っ張り出してベルトを外し、ズボンのジッパーを下ろす。この間わずか30秒。 「柊さん、実はわたしずっと無理な我慢を重ねてたからもういい加減、限界が近いんです」 だから 「すっごくいい声が聞きたい」 艶のある唇でそんな台詞を臆面も無く言い放つ。 熱っぽい眼差しで「頷いて」と催促する。 細い指先が誘うように柊の中心を引っかいた。 「…っん…」 上擦った声が反射的に漏れる。 口内に残る唾液の味が頭の中を瑠依一色に染めた。 「…して、いい、よ…」 許しの言葉と同時にあっという間に柊のモノは外気に曝されたが、ヒヤッとした空気は次の瞬間には瑠依の暖かい口の中の感触へと変わった。 「あぅ…く…」 柔らかい舌が性急に高みへと押し上げようとするのに応えるように柊の質量は一気に増す。 「…ふっ…瑠、依…ああっ」 唇から漏れた喘ぎは白い息と一緒に公園の静かな空気に溶ける。 堪えるようにかみ締めた唇と、鼻から漏れる声さえ甘かった。 「あっ…駄目だ…ん…ひっ」 シャツの裾から瑠依の手が入ってきて柊の胸を愛撫する。 小さな尖りを見つけると指先で引っかくように弾いたり指腹で撫でるように愛撫する。 攻められ続けている柊の目尻に再び涙が盛り上がった。 冷たい温度の夜の中で、額に汗が滲む。 快楽に歪む柊の表情と、開いたシャツの隙間から覗く引き締まった胸に瑠依は見蕩れた。 「ん、んんっ…あっ…ああぁ」 時折軽く歯を立てて、先端を舌先で擦ると一層柊の声は甘みを増す。 腰がビクリと何度も震えだして限界が近いと教えた。 胸を愛撫していた手の片方を柊の中心に添えると口と合わせて扱き出す。 喘ぎの代わりに、柊の身体が激しく強張ると瑠依の口内で白濁としたものを吐いた。 荒い呼吸を震える息で何度も繰り返す柊の下腹部で、瑠依が全てを飲みだすと今度は綺麗に柊のモノを舐めて元通りにしてやる。 「やっぱりちょっと物足りないけど、仕方ないから我慢しましょうね」 達したばかりで焦点が合わさりにくいままの柊の目を見つめて瑠依がそっと囁くと、ぎゅうっと彼女の身体を抱き締めた。 「明日だけなら…なんとか我慢できる」 それ以上はどうしたって無理だと告げる柊に、瑠依が満面の笑みを浮かべながらその頬にキスをした。 次の日、部活の朝錬にやってきた美鈴が目にしたのはいつもと変わりない、柊に無駄にまとわり着いてハートマーク飛ばしまくっている瑠依の姿だった。 「……絶滅せずに生き残ったか」 心底残念そうに呟いたとか。 「瑠依ってさぁ、大学行ったら一人暮らし始めるの?」 部活中の弓道部道場でいつものように瑠依と美鈴と楠木が寄り合っているとふいにそんな話題が出た。 「んーん、しないよ。柊さんと二人暮しだもん」 ぶほっ 「夢のような日々よねぇ…毎日毎日柊さんのあの顔と体と声がいつも目の前に…襲ってくれと宣言しているようなものだよね。むしろそうしてくれと言わんばかりだと思うのは私だけ?やっぱ据え膳は食うのが正しい礼儀よね。私、柊さんに対してはいつも全力で受け止める気満々だしいっそ毎日襲いたいくらいなんだけど…」 「もういいわこの節操なしがぁぁぁぁっ!」 |