★チェリストとアフェット★


〜じれったくて甘い甘い疼きを教えたい〜

06年9月11日完成。

07年5月30日掲載







 少女はビルをどんどん下へと下へと降り、エレベーターを出て玄関までたどり着くと入り口で立ち止まりそのまま動かなくなった。

 誰かを待っている。

 雨が霧のように降っているなかで傘を差しながら少女は外をひたすらに見つめた。
 それに気づかれないようにずっと少女のそんな様子を彼女が気づかない位置でただ見つめる。

 雨に打たれながら…。

 いつまでもいつまでも銀色の飴細工のように繊細な光の反射を繰り返しながら雨は降り、 そうしてあの子が外で待ち続ける姿を見ていた。
 わざわざこんなところにまるで隠れるようにして立っているというのにそれでも心の片隅で あの子が自分に気づいてはくれないかと、そんな事を思いながら…。





瀬乃崎氏の不器用な愛模様。





 ホテルの一室で淡い色ながらも深みのあるブルーの滑らかなベッドシーツの上に無造作に身体を横たえながら  瀬乃崎せのさき  遊弦ゆづる は右手の薬指にはめたプラチナのリングをじっと眺め、反対の手がその輝きに引き寄せられるように伸ばされた。

 宝石に触れるようにそれに触れる。

 自分でも重症だと思うくらいに惚れこんでいるこの恋に小さく苦笑いを零す。
用意された温かい飲み物と食事に温もりを与えらても、自分の指でひそやかに輝く証こそが何より初めて 安らぎを手に入れたこの冷えた身体も沈みかかっていた心も熱くするのを自覚して彼のきりりとした秀麗 な眉の下にある黒い瞳にはなんとも言い難い喜びだとか切なさだとかが入り交ざった感情が浮かぶ。

 明日は会いに行こう…誰がなんと言おうと…、そう心に決めた。

 リサイタルが終わり、次のスケジュールまでの空いた時間を必ず彼女と一緒に過ごす事に全て費やすつもりでいたのに その後の取材やインタビューで思っていた以上にそれらが削られて焦燥が募っていた瀬乃崎の心はそろそろ耐えられる 限界を超えそうだった。
 「会いたい…どれだけもう会っていない?」
 チェリストとしての自分に忙殺されて瀬乃崎 遊弦としての時間を得られない事は以前なら まったく辛いものには感じなかったのに…今はもう、ただ恋人への焦りや愛しさに一杯になる。

 睦月…。

 携帯のメールに文章を打つ…いつも短くまとめようと心がけるのだが、 彼女へのメールの場合は大抵思い通りになったことがない。予定よりも少しだけ画面を 多く埋める文字は瀬乃崎の恋人への言い尽くせない想いのカケラだった。
 時掴 睦月は瀬乃崎の音楽とは関係ない方面での旧くからの友人の娘で、 まだ高校に通う年齢の少女だったが、彼にとっては最も大事な可愛い人でもある。
一方の瀬乃崎本人はイギリスを拠点に音楽活動を行っているまだ30過ぎの若いチェリストで、 日本にリサイタルにやってきたのも随分久しぶりのことになり、雑誌や新聞、 テレビなどのメディアからの取材要求をこなさなければならない事が多い為かせっかく 睦月が春休みの時期に日本にやってきたというのに会える時間がとれない。

 手にしていた携帯からメールの着信音がして、瀬乃崎はすぐにそれを開いた。

 『こんばんは』から始まる丁寧な文章が彼女らしいと思うその反面で、 その礼儀正しさが自分と彼女の間の埋められない年齢や距離のようにさえ感じることを瀬乃崎は決して相手に気づかせた事がない。

 『こんばんは、今日のリサイタルには私も見に行きました。
 チケットを贈ってくれてありがとうございます。

 オーケストラの時の遊弦さんの演奏も好きだけど、私はリサイタルで聴く貴方のチェロが一番好きです。 久しぶりの日本はどんな感じですか?今は桜が綺麗だからきっと観光も楽しいですよ。
 今日の東京都の庭園美術館でのリサイタルでも桜の木が満開だったの、遊弦さんは見ましたか?
今日はあいにくの雨だったけどいつかまた、一緒にお花見にでも行きたいな…。』

 睦月のその文章に瀬乃崎は携帯を折りたたむとベッドから起き上がり、 ラウンドクローゼットからベッドフォード・コードのシャツとストレートのジーンズを取り出して 着替えると最後にテーラードジャケットを羽織り、ベッドサイドテーブルの上に無造作に置いておいた車のキーを手に取った。
 地下の駐車場から自分の所有するジャガーXK8に乗り込むとステアリングを握り、 エンジンを回して彼は雨上がりの夜の街に繰り出し、自分のたった一人特別な少女に会いに行く決心をする。

 好きで、お互い想いあっていて、いま同じ国にいて、それなのに恋人に「いつかまた」なんていう言葉を使わせた自分に腹が立つ。

 俺は音楽のせいで睦月に負い目を感じさせる事も、睦月のせいで音楽を負担に変える気もないっ!

 一目散に目指した恋人の家の前に車を停めると瀬乃崎は玄関のベルを鳴らしてから 誰かがドアを開けるのを待たずに入ると、外に着けてある車のエンジン音で誰が来たのかわかっていたのか、 階段を下りてくる睦月と目が合った。

 「遊弦さん!」

 物凄く久しぶりに正面から見た睦月の姿に瀬乃崎は強引に腕の中に閉じ込めて抱きかかえると 後からやって来た自分の恋人の父親であり年上の友人でもある男に「悪いが貰ってく」と言って家を出て行く。
 口調は穏やかだったが、目は本気だった。
 そのまま睦月を助手席に乗せて瀬乃崎は再び車を走らせて自分の泊まっているホテルへと来た道を戻っていく間、 だた無言で運転する彼を睦月はじっとしてその横顔を見つめていた。
 帰ってきたホテルで瀬乃崎が睦月を案内したのは上階にあるラウンジで、そこはまるで展望台のように 外の景色が一望でき、瀬乃崎はそのラウンジの窓際の席に睦月を案内すると彼女にはノンアルコールのテール ・フェザーズというカクテルと、自分にはコザックをオーダーする。
 下から見下ろす景色に見事な夜桜が映って睦月は感動して頬を染めた。
 「凄いっ夜に見る桜ってこんなに綺麗なんですね」
 そうやって夢見心地で桜を眺めていた睦月はふいに瀬乃崎のほうを振り返る。

 「私の為?」

 瀬乃崎は恋人の問いに僅かに瞼を伏せ、持ってこられたカクテルのグラスを指先だけで掲げ持ちながら  「半分当たり」と言い、微かに笑う。
 「…後の半分は自分のため」
 リサイタルが終わって会場を後する時に車の窓から何気なく外を覗いたら、 雨の降りしきるなかを傘をさして立っている睦月を見つけて瀬乃崎はその時にまだ恋人同士になる前の頃を思い出した。

 あの時も雨の中…キミは傘をさしていたね…。

 黙ってイギリスに帰ろうとした自分のホテルの部屋を訪ねて、 誰も居ないと気づいたキミは直ぐにフロアに戻ってそれから玄関の外でずっと待ち続けていた。

 ひたすらじっとそうして俺の姿を探していたキミを忘れられなかった。

 「ここのラウンジではこの季節になると桜のチーズケーキや紅茶を出すんだ」

 「本当にっ?」

 女の子らしく甘いものが好きな睦月が顔を綻ばす様子を見て瀬乃崎は優しく目を細めて見つめる。
 「ああ。…だけど、昼間にしかやっていないから…」

 だから今夜はここに泊まればいい

 「明日になったらまたこのラウンジに来よう」

 テーブルを挟んだ距離で、睦月へと身を傾けながら瀬乃崎は彼女の桜色の耳にそっと唇を寄せて囁く。
 「桜の一望できるホテルを選んだのも、睦月が春休みの時に日本に来たのも全部その為で…全部俺の我が侭なんだ…」
 掠れたような低い声を紡いだ唇が最後に彼女の耳たぶに羽のようなキスを 贈るとコクンと息を呑む音がして、少女の首筋が淡く染まった。
 触れ合わせていた距離を離し、瀬乃崎は睦月の顔を覗き込む。
 少し長めのストレートの髪の、サラサラとした前髪の下のその目がちょっぴり怒ったような、 泣きたいような複雑な色をしていて、彼女のスッと整えられた眉はまるで彼女のその気持ちを表すように少しだけ寄せられている。
 艶のある唇がゆっくりと開いて、その容姿に似合いの澄んだソプラノの声が発せられた。

 「会いたかったのは遊弦さんだけじゃないんだから…私だってずっとずっと遊弦さんが日本に来て …私に会いに来てくれるのずっと待ってた…。
 チェリストの遊弦さんだけじゃない…私だけの、遊弦さんに会いたかった」

 睦月の気持ちを聞いた瀬乃崎はなんだかもうそれだけで頭の中が彼女の事だけで一杯になって、 ラウンジを出て自分の部屋へと戻る間ずっと急いてしまう自分を抑えるために必死だった。
 エレベーターで降りる途中に一度だけ掠めるようなキスを奪って、部屋にたどり着いたら 今度は閉じられたドアと自分の間に睦月を挟みこんで、こじ開けるような強引なキスを交わす。
 歯列をなぞって、時折彼女の柔らかい下唇に軽く歯を立て、誘い出すような仕草で舐め上げて ゆっくりと口内に入れば、翻弄されてどうにもできないまま戸惑っている彼女の可愛い舌を探し当ててなぞり上げた。
 途端にビクリと華奢な肩が震えて瀬乃崎は唇を合わせたまま小さく笑みを刻む。
 そのまま口内で絡み合う音を響かせながら着ていたジャケットを脱いで無造作に床に落とすとバサリと乾いた音がする。自分の腕で柔らかい身体を引き寄せ、二人してもつれ合うようにベッドまでを歩いた。

 スプリングが軋む音と、シーツの擦れる音が混ざり合いながら響き、瀬乃崎はベッドの上に深く座り、 自分の開いた両脚の間に出来たスペースに睦月を膝立たせる。
 ちゅっと何度もキスを繰り返し、自分の肩に乗せられた睦月の手を横目で見れば、彼女の右手には自分と同じプラチナの指輪。

 左手の薬指にはいつか正式な指輪を贈るからと約束して、今二人の右手に光るペアリング。

 彼女の背中を抱き寄せて、近づいてきた首筋に唇を這わせながらゆっくりと舌でなぞると小さな喘ぎ声が聞こえた。
 「…っん…ふ…」
 堪えるような仕草が逆にどうしようもなく可愛い。
 一度強く吸い上げて赤い痕をつけた時、その声はずっとはっきりと部屋に響いた。
 「あっ…ん」
 頬が上気している睦月の潤み始めた瞳を綺麗だと思いながら彼女の服の前を静かに暴いて肌を曝し、 鎖骨の間の窪みにも同じように痕をつけ、それから少しずつ横に唇を移動させて軽く噛み付く。
 服の上から柔らかい脹らみを手で押し上げ、引き寄せるのを繰り返せば鼻にかかったような上ずった声が漏れて思わず聞き惚れた。
 「んっ…んん、あっ…ぁあっ…やぅ」
 抱くのはこれが初めてではないから、よく知っている睦月の身体の弱い部分を瀬乃崎は繰り返し何度も責め立てる。 服の上からでもわかるくらいに彼女の胸の先端が尖っていくのがゾクゾクとした感覚を生んで、 上着を脱がせて下に着ているものも全部を彼女の滑らかな肌から取り除く。
 ひんやりとした空気を感じて睦月が甘く息を吐いたのと同時に片手でゆっくりとした 愛撫を加えながらもう片方を唇に含んで軽く噛んだ。
 「あっ…ん、やっ…ああぁっ」
 いつもよりも高いソプラノ…舌先で胸の先端を転がし、手で愛撫を加えていたほうは先端の 中心にそっと爪を立ててやると華奢な背が弓なりにしなる。
 「や、ぁ…ツメ、立てたりしちゃ…ヤダッ…」
 感じすぎるのか、涙声で懇願されても瀬乃崎はむしろ愛撫を激しくした。手に圧力を加えて柔らかな胸を思う 様動かしながら唇で、舌で、指で弄ぶ。ふいに身を引こうとする動きを腕で強引に封じながら更に引き寄せた。
 時折ちゅっと音を立てればそれが恥ずかしいのか睦月は羞恥に染まり、 膝が震えだしたので瀬乃崎は彼女が着ていた服を全て脱がせるとベッドの上に横たえる。
 早い鼓動と息遣いを繰り返す睦月から一端離れて、瀬乃崎は起き上がると自分の衣服に手をかけた。
 カーテン越しの月明かりのなか、布ずれの音と一緒に床にそれらが落ちていく。
 引き締まった瀬乃崎の身体は月の光の中でシャープなラインを浮かび上がらせた。
 再び睦月の上に重なりながらその白い脚の間にそっと手を添えて、静かに割り開かせ、 男性らしいけれど、とても繊細な印象のする長い指が内腿を撫でながら内奥へと進む。 彼のその指の感触を感じて睦月が小さく声を上げながら息を呑んだから瀬乃崎はその瞼に何度も何度もいたわりのキスを贈る。

 「睦月…睦月、何も不安がらなくて、いい…」

 まだ慣れない少女の身体。でもその身体は瀬乃崎が一番大事で、何より愛しくて、 誰にも渡したくないもの。彼女の仕草の一つ一つすら他人には絶対に教えたくないくらいに。

 「全部、何もかも睦月のためのものだ…だから…いい、か?
 好きなだけ与えても…いいか?
 俺の全部を持っていって欲しい…くらいなん、だ…」

 自分の気持ちを吐露するのはなんだかとても難しくて大変だった。
 指先で何度もそこを行き来して、傷つけないように慎重に柔らかくしていきながら次第に 絡みつく感触や指が彼女の内奥からの蜜に塗れるのが堪らなく劣情を誘う。
 瀬乃崎が睦月の胸の谷間から臍へと口付けを続け、更に下の彼女の秘密まで暴くと花芯に魅せられ、 小さな花芽を唇で含み、吸うと今までよりもあえかで、自分の胸の奥まで疼いてしまいそうな悲鳴にも似た嬌声が上がる。  舐め上げれば一層それは切なさを増した。
 「んっ…やっぁあっ…あぁっ…あぁぁっ…」
 彼女の細い腰を捕らえて、滑らかな太腿をが時折痙攣するように震える振動を感じながら愛撫していた舌を離しその両足を抱え上げ、瀬乃崎は少しだけ性急に中へと押し入る。

 眩暈のするような彼女の感触に甘く引き寄せられて華奢な肢体に何度もはいった。

 快楽の砂糖水だけを与えて、蕩かせて、優しく優しくほぐしてやれば、それに懸命に応えてくれる恋人が愛しい。
 あんまりにも可愛くて、思わず苛めすぎて、許して欲しいと懇願されてもまだ冷たく微笑み、ただキミだけを更に貪る。
 箍を外した瀬乃崎の恋情はそうして幾度も責めぬいた。

 雨の中、ただ一心に俺を待つキミをあの時気づかれないようにじっと見ていた。

 傘さえもさすのを忘れて思ったのは雨にぼやけて映る横顔の綺麗さで、自分でもとても滑稽に思ったよ。

 他にはなんにもいらない…キミに気づいてもらう以外は…。

 「俺の望むものは全部キミがもってる…」

 揺すり上げて、好きなだけ泣かせて、それでもまだ欲しくて。
 それ以上に何もかも受け入れたくて、遣る瀬無い。

 俺の心の晴れ模様はいつだってキミ次第だから。

 このまま疲れるまで睦みあって、次に目が覚めたときにはとびきり優しくすると約束するから今はただ感じさせて欲しいと睦月の耳に囁いた。



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